“Other Voices” concertino for Left Hand piano

(Pf. 1fl. 2 cla. & strings)(2013)
初演 伊藤憲孝(pf) 指揮 藤村 知史 学内有志オーケストラ
京都市立芸術大学 2013年度作曲科演奏会

(校内初演時プログラムノート)
この作品は、ロンドンで書き上げた左手ピアノのための小協奏曲である。

平均律に調律されたピアノでは和音が完全に協和することはない。しかし単線律によって連続した跳躍を繰り返すことで、それらの音を調整しながら擬似的なデフォルメされた完全音程として聴者に受容されることを目指した。また三度より、四度や五度といった完全音程による跳躍を原始的に使用することにより三度のような調性感を作り出す和音のうねりをある種の不協和としてこの作品中では取り扱っている。作曲過程において演奏は片手であっても充分可能であると判断したため、この作品を最終的に左手のための作品とした。また完全に協和することのできる弦楽器との対比や、不安定なグリッサンドの多用等オーケストラは専らピアノを拡張する意義を持って作曲されている。

ぼやかすことで得られる明瞭性、そこで表現される理想的な世界、また美しいはずの歪んだ協和音といった要素は、トゥルーマン•カポーティの “Other VoicesOther Rooms” (邦題:遠い声、遠い窓)の文体、表現、描きだす物語、から影響をうけたため、タイトルとしても拝借した。また左手によって奏でられる単旋律的なピアノの側面(=別の声)という意味でOther Voicesというタイトル自体も作品に合致した。この作品の第2主題として、作曲家•壺井一歩氏のマンドリンとピアノのためのソネット第一番から、短いモチーフを氏の許可を得て引用している。

最後に、本日快くソリストとしての演奏を引き受けてくださった、福山平成大学准教授、エリザベト音楽大学大学院非常勤講師であるピアニスト、伊藤憲孝氏に大きな感謝を申し上げたいと思います。